かつて、『芸能人は歯が命』というフレーズが流行したが、ダンサーにおいては『背中が命』ではないだろうか。社交ダンスでは、背中のカッコ良さを象徴するピクチャーポーズには、タンゴのコントラチェックやプログレッシブ・リンク、ワルツのスローアウェイ・オーバースウェイやレフトホイスクなどが挙げられる。そんな難しい呼び名なんて知らないし、聞いたこともないという方、ダンス雑誌等をご覧になって下さい。男女が組んで踊っているグラビアを見て、「あっ、カッコイイ!」と思ったら、おそらくそれでしょう。(笑)
美と技を競い合う競技ダンスにおいて、勝敗を左右する決め手は、男子の背中である。採点の際にジャッジ(審査員)は先ず、踊っている時の背中のラインの美しい男子(リーダー)から順に、ピックアップすると言われるからだ。イケメン長身カップルでも、腰の曲がったおじいさんのように、リーダーの背が丸ければダメ。ダンスはまさに背中が命、髪の毛の多い少ないも、さほど問題なさそうだ。ほっ。(ダンス物語 第24話)。
ところで、『背中』といえば、筆者は産まれた時、背中のうぶ毛が多かったそうだ。女の子なのに背中が毛深くて、将来お嫁にゆけるのかしら…と、親はたいそう心配してくれたと聞く。当時、こんにゃくで背中を洗うと、毛深いのが治るという迷信があったようで、祖母はこんにゃくで赤ん坊であった私の背を、毎日洗ってくれたそうである。
さて、先月埼玉で開かれた競技会での出来事、その日私は気合いを入れて、元世界チャンピオンのアレッシア・ベッティ選手と同デザインの、背中が深く開いたドレスで試合に臨んだ。2次予選を踊り終え、控え室でパイプ椅子に腰掛けて、競技結果が貼り出されるのを待っていたその時、背中にピッピッと、鋭く走る痛みを感じた。一体何が起こったのかと思いきや、リーダー君がパートナーの背中の毛を、指でむしっていたのだ。しかもこう呟きながら。
「ジャッジからは見えないから、いいか…」
★成子さん、普通男でも、そんな所に毛が生えないよ!(涙) by リーダー
☆そうかしら? まぶたの裏側にだって、毛が生えている患者さまもいらっしゃるわよ。(これを異所性睫毛といいます) by パートナー
著者名 眼科 池田成子