「手術が上手か下手かは、(執刀医が使った)針を見れば分かる…」
研修医の頃、先輩医師からそう言い聞かされた。
「それってホント?」
「針を見て分かるの?」
と、思われるかもしれないが、実にそうなのだ。
眼科手術では、肉眼で見える限界といえる10-0ナイロン針(糸の直径は約0.02ミリ)を顕微鏡下で操作する。上手な執刀医は、手術を終えた後の針は手術前と変わらず、針のカーブはきれいな弧が保たれていて、しかも針の切れ味は最後まで良い。しかし未熟な執刀医になると、手術中に針に無理な力が加わって、細くて繊細な針が変形して、切れも非常に悪くなってしまう。
ダンスにおいても然り。ダンスシューズを見れば、ダンスが下手かどうか分かってしまう。私は7センチヒールのラテンシューズを履いているが、靴を平らな床の上に垂直に置くと、右の靴がなんだか不安定。コロンと外側へ倒れてしまうこともあった。これはダンスが下手な証拠(苦笑)。立っている時のバランスが悪く、靴のかかとに無理な力が加わっているのだ。ダンスを習い立ての3年前は、3ヶ月で靴が変形してしまっていた。今では手術の針と同様に、靴の寿命も少し延びてくれたが…。
ところで、達人でありながらダンスシューズを3日で履きつぶす凄い人がいる。元全日本ラテンチャンピオンの某先生。おしゃれメガネの先生で、テレビ『芸能人シャルウィダンス』の審査員も勤められた。その先生の講習会に参加させていただいたことがあるが、一体どんな物凄い練習をしていらっしゃるのだろうか?
さて、誰しもお気に入りの靴があるのでは? 私は黒のGolfの皮靴を、20年近く愛用している。手入れは欠かさず、かかとの部分は毎年替えているが、かかとの減りは左右均等ではなく、右の方が早い。しかも、かかとの外側が内側より早くすり減る傾向にある。(これって、ガニ股で歩いている証拠?)
『靴』は、履く人を語るようだ。ダンスをされる方もされない方も、一度はご自分の靴を眺めてみてはいかがでしょう。今まで気づかなかった何かが、発見できるかもしれません。
著者名 眼科 池田成子