社交ダンス物語 34 「続・バレンタインデーの晩に」

コラム

 バレンタインデーといえば、「お父さんが、チョコを沢山もらって帰ってくる日」と、わくわく期待しているお子さんも少なくないのでは? ちなみに、40代独身男性である、自称『モテない君』のリーダーは、昨年にひき続き今年のバレンタインも、チョコをもらえなかったそうである。昨年は職場の女性から「チョコあげて、勘違いされたら困るから」と、せんべいを戴いたそうだが、今年は男ばかりの部署に換わり、せんべいすらくれる人がいないとリーダーは嘆いている。
 昨年のバレンタインデーは、仕事を終えて夜遅くまで病院の講堂でダンスの練習をした(ダンス物語・第12話)。今年のバレンタインデーは休日に当たったということもあり、開店と同時にいきつけの富山のダンスホールで練習をすることにした。練習の前に、リーダーにデパートへ立ち寄ってもらった。ダンスホールのマスターに、チョコを渡したかったからだ。
 デパートの地下には、バレンタイン用のチョコが見事に並んでいた。
「マスターには、どんなチョコがいいかしら…」
わくわくしながらチョコを選ぶ私。その傍らでリーダー君は、カラフルでゴージャスなチョコを眺めながらしょんぼりしている。私はそんなリーダーが、気の毒で、とても可哀想に思えてきた。
「好きなチョコ、一つだけ選びなさいな。買ってあげる。」
するとたちまちリーダーは、水を得た魚のように生き生きとした表情に替わり、真剣にチョコを選びはじめた。彼が選んだチョコは『りんごチョコ』。りんごのドライフルーツに、チョコレートがコーティングされたもの。なぜそれを選んだのかを聞くと、あるダンスのトッププロの先生が試合前に『りんごチョコ』を食べることを推奨していたのだそうだ。(そういえば、競技会ではコンペ食として、チョコやバナナ、りんごを持参している選手が多い)
 その日は一番乗りにダンスホールへ駆けつけた。真面目に踊り続けるとお腹がすく。エネルギー補給に、先程買ってもらったりんごチョコを食べて、リーダーはまた踊る。
「ダンスの練習の時には、いつも成子さんが甘い物をくれていた。僕にとって毎日が、バレンタインデーだったんだね」
母性本能をくすぐるリーダーの健気な言葉に、パートナーはホロリ(涙&笑)。
 後楽園ホールで開催される競技会に向けて、2010年のバレンタインデーも、二人は遅くまでダンスの練習に励んだのであった。


著者名 眼科 池田成子