社交ダンス物語 31 「『ハレ』の日に」

コラム

 2010年の元旦は、緊急時の当直当番にあたってしまった。お正月は実家にも帰れず、大好きなお酒も飲めず、病院で待機(新年早々大当たり!)。その日は大雪と強風に見舞われ、新潟県には波浪警報がひかれた。リーダー君も元旦に職場から呼び出し命令が下り、カップラーメンを持参のもと一晩職場で過ごしたという。ということもあり、新春はダンスホールで労をねぎらい、思いきり発散することにした(笑)。
 1月3日は、行きつけのダンスホールの踊り始めの日だ。ダンスファンの我々にとっては、『ハレ』の日である。いつもは洗濯を重ねてよれたTシャツで踊っている二人であるが、その日はフロアに敬意を示し、『ハレ』の服で参上することにした。
 午後3時頃に、ダンスホールへ到着。ホールが最も賑わう時間帯だ。「財布を忘れた」というリーダーの言葉に、新年二度目の大当たり!(苦笑)入場券を2枚購入させられることに…。
 ホールへと入る。我々を見たお客さん達が、ザワザワとこちらへ寄って来た。
「どうしたの? その服!」
皆さんとても驚いている様子。ちなみにリーダーは襟のあるシャツにネクタイを締め、私は白いロングドレスだ。
「一張羅です」
お客さん達の問いかけに対し、そう答えるリーダー。そして、それにうなずくお客さん。ダンスホールでは、『しょぼい服のカップル』というイメージが、定着していたようだ。
 ホールでは普段はあまりかからないサンバやパソ・ドブレ、ウインナーワルツなどの曲が流れていた。ウインナーワルツといえば、競技会では選手権の準決勝からでしか踊られない種目でもあり、馴染みが薄いのか踊っているカップルは見受けられない。こんな時、『我踊る。ゆえに我あり!』とばかりに、フロアを駆け巡るリーダーと私。
「踊りが良く見える。ドレスが良いからかい?」
お客さんからの、ジョークあり(笑)。
 踊り始めて4時間半経過。喉がカラカラになって、カウンターへと向かう。
「マスター、コーヒー下さい」
「ちょっと待って」
マスターはフロアの外へと向かった。ホールの入り口には、客がひけると電源が切られるというドリンクの自動販売機が設置されている。ひょっとしてマスターは、自販機の電源を入れに行ったのでは…と危惧されたが、カウンターのテーブルには、綺麗な陶器に入った香りの良いドリップコーヒーが2つ並べられた。ほっとする二人。(笑)(ダンス物語 第26話)
 『ハレ』の日、ダンスホールで憧れのカウンターに座り、美味しいコーヒーで新春を迎えることができた。健康で平和であることに感謝。時間を共にしてくれたリーダーに感謝。


著者名 眼科 池田成子