社交ダンス物語 28 「女で得した?」

コラム

 さて、ご婦人方、ご自分が女性で良かった、もしくは得をしたと思われたことはありますか? 私の場合、そのような実感はあまりない。今では女性医師の割合も増えて、男女分け隔てなく扱ってもらえるが、私が研修医だった一昔前は、メスを執る外科系の医師という職は、『男の領域』という風潮が強かった。その風潮の中で、女性医師が生き抜くには覚悟が必要(笑)。男の倍の仕事をこなして、やっと対等扱い? もし、自分が絶世の美女だったら、医師になろうとは思わなかったろうし、女性であることを神に感謝したことであろう(笑)。
 そんな私が唯一、「女で得した!」と思うようになったのは、社交ダンスを習い始めてからである。その理由は、社交ダンスというものは、男子は女子の3倍、いや5倍以上難しくて、努力が必要といわれるからだ。パーティーで女性をリードして踊らせることが出来るようになるまでに、相当な努力と時間を要する。一方女子の場合は、受け身であるためダンスを習い始めてわずか1ヶ月でも、パーティーで楽しませてもらうことができる。夫婦で同時期にダンスを習っても、奥さんはすぐに上達して踊れるようになるのに、ご主人は取り残されてしまうというパターンも少なくないようだ。そんな奥さんの罵声を浴びているご主人は、本当にお気の毒。寅さんじゃないが、社交ダンスにおいては、「男はつらい」ようである。
 ワルツにしてもルンバにしても、ただ決まったステップを踏んでいるだけではない。ダンスには理論があり、踊るための予備知識が必要だ。プロの先生となら巧く踊れるのに、パーティーで先生以外の人と踊ったら、うまく踊らせてもらえないという声を女性陣から聞くこともある。その違いは、リード&フォローにある。プロの先生はこのリード&フォローが巧みで、ダンスが未熟な女子でも綺麗に踊らせてしまうのだ。ダンスが下手な私でも、先生に踊ってもらっている時はとても気持ち良く、自分はダンスが巧いという錯覚にさえ陥る。その後でリーダーと踊ったら、まるで違和感の塊。「先程までは出来たのに…」、「先生とは違う!」の連発で、しまいにはリーダーの耳を塞ぐことに…。
 大胆な言い方だろうか? ダンスパーティーにおいては年齢も職業も顔も、そして髪の毛の多い薄いも関係なし。紳士的で女性を満足させて踊らせて下さる方が、女性陣からもてるようだ。ダンス愛好家の男性の皆様、日々の練習お疲れさま。もうじきクリスマス・パーティーの季節。今から楽しみ。


著者名 眼科 池田成子