手術上達に向けて、自分が執刀する手術をビデオで撮影して勉強することがある。パーフェクト!と思いきや、後でビデオを見ると反省させられることが多い。眼科手術は顕微鏡下で行われる。術者は両手両足を使って器具や器械を操作するが、画面上では自分の左手の動きが止まっていたり、逆にちょこまかと右手の無駄な動きも少なくない。手術同様に、競技ダンスの試合や練習光景なども可能な限りビデオで撮って、客観的に評価するようにしている。
競技会場で自分達の踊りを撮影する場合、二階席のコーナーにビデオカメラを設置して、そのまま回しっぱなしということが多い。しかしこの場合、広い会場全体を映すため、踊っている自分達は豆粒サイズだ。可能であればクローズアップや望遠レンズを使って人に撮影してもらうのがベスト。ただし、ダンスの心得のない人にビデオ撮影をお願いする場合は、「体全体を写して下さい」と、当たり前と思っていることも念を押すようにしている。ビデオ撮影を頼んだはいいが、試合の始まりから終わりまで、二人の顔だけがアップで写されていたという話も聞くからだ(苦笑)。
ピンクの色眼鏡を通して自己を評価しがちだが、ビデオは実に正直だ。試合では、はち切れんばかりに全身を使い、「自分達はカッコイイ!」と思っても、後でビデオを見ると「なんて不格好・・・」と目を覆いたくなる。スピードや力強さが要求される競技ダンスにおいて、他の選手と比較すると、自分達の踊りは『お遊戯』のよう。ビデオでは実際より動きが緩慢に見えるといわれるが、世界選手権などのビデオで、目にもとまらぬ速さで舞っている選手達は、実物を間近で見ると想像を遥かに超える動きをしていることであろう。レッスン中にコーチャーから「突っ立ってないで!」と言われることがある。突っ立っているどころか、本人は精一杯シェイプして頑張っているつもりだ。我々カップルの場合、死に物狂いで動いてやっと『普通』に見えるようである。
さて、一年前に富山で行われた競技会は弟にビデオ撮影してもらったが、同じ大会が富山で開催されることになり、ラッキーにもまた撮影してもらうことが出来た。一年前の未熟な自分達の踊りと比較して、どれだけダンスの技術が向上したか、わくわくしながらビデオを見たのだが、これまたガッカリ。踊りには、これといった大きな進歩がみられない。一年前との明らかな違いといえば、二人とも前髪の生え際が後退している。
客観的に自分を見ることは大切だ。ボールルームダンス、とくにスタンダードはすぐには上手くならない。「命短し、踊らにゃ中年。ヘアピース(かつら)のお世話になる前に、フロアで花を咲かせたい・・・♪♪」そう唄いながら、練習する毎日である。(笑)
著者名 眼科 池田成子