社交ダンス物語 23 「真夏の夜の夢」

コラム

 「ため息をついちゃだめ。幸運が逃げてゆくから…」先輩のドクターから言われることがある。ここのところ、ため息の回数が増えている。とくに病院のトイレの中、「はぁぁ~」と長く大きなため息をついている自分がいる。(周りの人達に、相当コワイ思いをさせているのでは?)ダンスの練習中にも、ため息は連発する。
 真夏の夜、省エネのためエアコンが切れ、練習曲が響かないよう扉と窓を閉め切った病院の講堂に、一組のカップルあり。汗だくになりながら熱中症寸前でダンスの練習に励んでいる。そう、私とリーダーだ。二人は鏡に向かい、音に合わせてルンバウォークを始めた。
私:「はぁ~ 床に真っすぐに立てない。歩くときは普通に立って歩いているのに、ダンスになったらなぜ歩けないの?!」
リーダー:「ダンスは脇から下が足だよ。」
二人はさらに練習を続ける。今度はリーダーが腕を振るわせて、
リーダー:「うぉぉっ~ うまく踊れない! 出来ない自分がもどかしい!」
私:「才能がないんだわ。特に私。」
リーダー:「それなら人の何倍も努力するしかない!」
私:「才能のある人が努力して報われる世界よ。」
リーダー:「同じ人間だ。出来ないことはない。」
それから二人は官能的な踊りといわれるルンバを踊り始めた。そこでまたパートナーは、ため息をつく。
私:「恋人同士で踊ったら、うまく踊れるでしょうね。」
リーダー:「ダンスをしている時、僕はいつも相手の女性を恋人と思って踊っている。」
私:「腰の曲がったお婆さんも?」
リーダー:「そうだ。」
 最大限の結果を出すためには、実力があることが必要条件だ。だが、運やツキを逃がさないことも肝心かも…。やらなければ、運やツキは巡ってこない。真夏の夜、ため息をつきながらも(運が逃げちゃう?)チャレンジし続ける二人であった。


著者名 眼科 池田成子