社交ダンス物語 21 「お客様からのメッセージ」

コラム

 「あなた達、なんで笑わないの?」富山のダンスホールで、常連のお客さんから声をかけられた。彼女は先月富山で行われた日本海ダンス選手権大会を観戦したそうであるが、その大会に出場していた我々カップルを応援して下さったという。ドレスも素敵でとても目立っていたと褒めて下さったが、大会では二人とも顔をひきつらせ、相当怖い顔で踊っていたようである。
 『ダンスは楽しいもの。あなた達は、笑えばいいのに…』素朴に彼女はそう思ったのであろう。我々が週末通っている富山のダンスホールは、競技選手と社交ダンスを楽しむ方々が入り混じって踊っている。違いは一目瞭然。社交ダンスを楽しむ方々はお洒落をして、いろんな方とダンスを楽しむことに喜びを感じ、笑顔で踊っている。一方競技選手はTシャツやジャージー姿が多く、特定の相手とのみ組み、眉間にしわを寄せて罵声が飛び交うカップルも少なくない。
 競技ダンスは、他のカップルと比較のもとで採点される。審査員をはじめ観客に自分達の踊りを見ていただき、「またあの踊りが見たい!」と思わせたカップルが優勢だ。笑顔もダンスの一部であるから採点のうちに入るのだろうが、アマチュア競技会において笑顔で踊っているカップルは、あまり見かけない。周りより上手に踊りたい、勝ち上がりたい…という気持ちが、笑顔を忘れさせてしまっている。
 さて、店先に怖い顔をした店員さんと、笑顔の店員さんがいたら、お客さんはどちらの店に足を踏み入れ易いだろうか? 競技ダンスも然り。笑顔のないダンスは、砂糖を入れ忘れたおしるこのごとし。自分達がフロアで踊りを楽しんでいる時、見るお客さんも楽しいことだろう。ダンスを習い始めた頃の、初心に返って突進!(笑)

著者名 眼科 池田成子