社交ダンス物語 16 「より美しく…」

コラム

 眼科医としてメスを執って18年、より美しい手術を目指して努力してきた。美しい手術って何?、視力を1.0に回復させればいいじゃないの?…と思われるかもしれないが、医術も「アート」であり執刀医にだって、こだわりというものがある。私の場合、『無駄なき手術』を心がけている。この場合の無駄とは、執刀する際の術者の手の動きのことを指す。大概の眼科手術は「角膜」という透明な組織を通して顕微鏡下で手術が行われる。無理な操作や手術時間が長くなると、角膜が混濁しはじめる。そうなると霧の中での車の運転のよう…術野の視認性が悪くなり、術中合併症という悪循環をも引き起こしかねない。よって、「速さ・正確さ」が、より美しい手術に結びつくという持論(笑)。そのために肝心なことは手術開始から終了まで、メスを執る手に無駄な動きがあってはならないということになる。
 では次に、ダンスに置き換えて考えてみた。美しい踊りとは、どんな踊りであろうか? これも手術同様、バタバタと無駄な動きがあってはいけない。ダンスの本には「ナチュラルムーブメント」と表記されている。ダンスは身体の自然の動きから構成されており、動く足にも『通り道』があるという。ルンバウオークを例にとると、前に足を出すのではなく、腰の回転運動に伴い自然と足が前方へ移動する。ワルツの一連の動きにしても、足を揃えるのではなく、股関節と膝が緩むから自然と足が寄って美しいスイングが生じる。無駄のないナチュラルな動きこそ、「速さ・正確さ・しなやかさ」を踊りの中に表現することができる。
 さて、春は競技会のシーズン。ダンサーは見た目も肝心。踊ってナンボ、見られてナンボと言っても、過言ではないだろう。競技会では、リオのカーニバルのような衣装を身にまとう。無駄なきが「美」と、前段で述べてきた筆者ではあるが、風呂上がりに鏡に映る下腹部に付いた無駄(?)は餅のようで、まさにムンクの叫び状態。ナイスミドルを目指して、ダンスと共に前進!前進!(笑)


著者名 眼科 池田成子