社交ダンス物語 11 「リーダーとパートナーの関係」

コラム

 おなじみの通りボールルームダンスとは、音楽に合わせて男女が踊るものであり、「社交ダンス」と「競技ダンス」とに分けられる。その違いは、社交ダンスは相手を変えてお互いが踊りを楽しむというもの、一方競技ダンスは特定の相手と組んで競技会で『美と技』を競い合う。競技ダンスにおいて男子は「リーダー」、女子は「パートナー」と呼ばれている。リーダーとパートナーは『夫婦以上の関係』とも言われる。誤解されがちなのだが、ここでいう夫婦以上の関係とは、俗に言う男と女の関係とは違う。競技会で良い成績を修めるため、同じ目標に向かって二人が力を合わせて努力をしなければならない。練習中や競技会場では、「先生とは違う!」とか「悪いのはお前の方だ!」「そんなリードじゃ踊れない!」など、口論になることもあるが、お互いを思いやることも大切である。
 私のリーダーは、雨ニモマケズ風ニモマケズ、吹雪や渋滞、残業にも負けず、高田から糸魚川まで毎晩のようにダンスの練習のため欠かさず車で私を迎えに来てくれる。競技ダンスはピアノと同様、練習を1日欠かせば本人が分かり、3日欠かせば先生に分かり、7日欠かせば観客に分かるという教訓がある。リーダーの到着時刻は午後8時を過ぎることもあるが、おやつ代をきりつめ交通費にあてがっているため、彼はいつもお腹を空かせている。病院の売店で購入しておいた菓子パン(二人ともアンパンが大好き)と、挽きたての熱いコーヒーで腹ごしらえをしてから、彼の車で練習場へと向かう。
 ある日のことである。空腹を満たしてもらったリーダーは独身女性のマンションの部屋で、遠慮なく馬鹿でかいくしゃみをした。「やめてちょうだい!この部屋に男がいると思われたら困るじゃないの!あなたと私は他人なのよ!他人!」悲鳴をあげるパートナー。丁度そこへ電話が鳴った。受話器をとってしまったことに後悔。医師名簿を入手してはドクターをターゲットに、税金対策という名目で貸し付け用のマンションを購入させようとする不動産からの勧誘であった。再三再度かかってくるが、お断りの口実もネタが尽きていた。「只今主人と替わります。」そう言うや否や、きょとんとした目のリーダーにさっと受話器を渡す。
 さて、アマチュアダンス競技会では、年齢を問わず様々なペアと遭遇する。リーダーとパートナーは夫婦であったり、別所帯であったり、独身同士もいれば、親子や兄妹、姉弟ペアもいる。いずれにしてもダンスとは二人が組んで踊る共同作業であるから、口論や喧嘩した後などはメンタルな部分が踊りにも影響しかねないだろう。良い踊りをするためには仲良くすることも大切、とはいえパートナーの都合によりある時は他人、そしてある時は夫扱いされるちょっぴり(?)気の毒な私のリーダーである。

著者名 眼科 池田成子