社交ダンス物語 10 「脱着訓練の末は…」

コラム

 関東甲信越競技ダンス長野大会、スタンダードF級に挑戦したときの話である。種目はワルツとスローフォックストロット。競技会出場にあたり服装は、男子は燕尾服で女子はドレスである。美と技を競い合う競技ダンスでは、ドレスは女の戦闘服と言えよう。試合に相応しい手持ちの衣装がないため、先生のドレスで出場することになった。
 光輝く石(ラインストーン)が付いている先生のドレスは美しい。初級者でも上級選手のように見せてしまう。問題は衣装替えだ。選手達の控え室は体育館の一角なため、男女別の更衣室どころかついたてすらない。
 大会前夜、ホテルの部屋で衣装の脱着訓練をおこなった。黒いマントのようなナイロン製のかぶり物を頭からすっぽりと被り、その中で脱いだり着たりを繰り返した。摩擦でドレスに付いている装飾の石がパラパラ落ちてしまった。(それまで私は知らなかったのであるが、ドレスにとって摩擦は大敵なのである) 
 試合当日、石がとれてボンドの跡が黄色く残ったドレスで大会に臨んだ。ここのところ予選落ちばかりであったが準決勝まで勝ち残れた。光りモノが落ちても、師匠のドレスの力は偉大である。

著者名 眼科 池田成子