社交ダンス物語 8 「終電の中のつぶやき」

コラム

 毎週水曜日と土曜日の晩に、糸魚川から高田のダンススクールへ電車で通っている。お世辞にも出来の良い生徒とは言い難く、前回習った足形は、次のレッスンの時にはきれいに忘れていることが多い。帰りの電車の中で、今日習ったことすら思い出せない時もある。ひょっとしたら、始まったのだろうか・・・ (忍びよる認知症?)と危ぶまれる。
 田舎の終電は、お客は殆どいない。疲れ果てたサラリーマンと酔っぱらいが数人いるぐらいだ。忘れまいと、がらんとした車両の通路で習いたてのステップを一人踏む。電車の中で腰をうねらせているアブナイ中年女がいると通報されたらまずいのであるが、幸い今のところ問題はなさそうだ。
 終電の中で、ふと睡魔が襲ってくる。寝過したら、富山行きである。うとうとしてしまうののだが、糸魚川の一つ手前の駅で、はっと確実に目が覚めるのだ。ダンスはダメでも、自分にはそんなすごい能力があったなんて驚きである。


著者名 眼科 池田成子