「え”?」
再度、水を流しました。水は便器の上へ、みるみる上がってきます。すかさず便器掃除ブラシを手に取り、それを便器の奥へ差し込んで、便器の中を撹拌しました。これでもか!というくらい。
「これで大丈夫?」
三度目の水を流しました。そこには、おぞましき光景が…。便器すれすれまで水位は上昇し、溢れんばかりです。これはただの『水』ではないのです。慌ててうちのリーダーに電話をしました。
「成子さん、慌ててはいけない。待って。」
リーダーの言う通り、心を落ち着けて待つこと数分。その後いそいそとトイレへ戻り便器を見たら、ウソのように水はひけていました。便器はあたかも、「ワタシは何もしていません」という顔をしています。トイレが詰まっても、慌てず待っていれば、自然に水がひくこともあるのですね。お勉強いたしました。トイレが詰まると、慌てて余計に水を流したくなる心理が働きますが、これは逆効果。かつて「6秒待つ女」というエッセイ(第215話)を書きましたが、慌てずに待つことはとても重要なのですね。
『慌てる乞食はもらいが少ない』
こんなことわざがあります。慌てて急ぎすぎると、結果的に失敗をしたり、かえって損をすることがあります。ダンスもしかり。ボールルームダンスでは、女子の三原則は「待つ」「受ける」「ゆだねる」。自分は待つのが苦手なので、つい男子より先に動いてしまいます。その結果、一体感のないバラバラな踊りになってしまいます。でも、ダンスでは仕掛ける側の男子にも、時には待っていただきたいと願うのですよ。フォーラウェイ・リバース&スリップ・ピポットからテレスピンで(注1)、うちのリーダーは女子を2歩トコトコ歩かせる前に、左腕で力任せに女子を引っ張っています。間に合わないとばかりに。
「慌ててはいけない。待って。」
人に待てと言っておきながら、自分は待てないの? これじゃ、距離が伸びませんわ!(笑)
注1)男子と女子が入れかわりながら進んでゆくステップ。組んで男子と女子が回転しているように見える。
著者 眼科 池田成子