社交ダンス物語 347 マスターのこだわり

コラム

 これは自分たちが愛するダンスホール『銀の花』のマスターから聞いたお話です。リーマンショックで不景気だった時代に、カウンターでお客さんに是非とも美味しいコーヒーを提供したいと願ったマスターは、取引しているコーヒー販売業者に声をかけたそうです。するとお店には、数種類のコーヒー豆が届いたそうです。お店で出される同じメーカーのコーヒー豆でも、ランクがあるそうですね。最上級の豆は中間のクラスの豆よりも5割高くて、下の豆の倍料金。いろいろ飲み比べたところ、トアルコトラジャは最も美味しかったそうです。最上級の豆ですね。不景気の時代とはいえマスターは、トアルコトラジャをうちの店に入れたいと業者に申し出たそうです。
 
 問題は、その後に発生。取引はすぐに成立せず。コーヒー販売業者は銀の花のお店に、間違えたコーヒー豆を届けた模様。つまり、本来ならここダンスホールには、届けてはいけなかった豆。トアルコトラジャは、一流ホテルもしくは一流百貨店にしか、販売できない豆と言われたそうです。いくらお金を出すと言われても、一流でなければお断りとのことでした。
「うちの店が一流かどうか、見に来て下さい。」
マスターは、そう言ったそうです。するとコーヒー販売業者の部長さんが、銀の花のお店にやってきたそうです。部長さんはダンスホールの中をじーっとひとまわり見て、一言。
「一流ですね。」
そして、取引は成立。当時、「ダンスホール」イコール「三流」という風潮があったのでしょうか。「部長さん、どこ見て一流と言っているの?」と、マスターは昔を思い出してニッコリ笑っていましたね。銀の花のコーヒーは、美味しいと言う人ばかり。マスターのこだわりです。
 
 そして、一流のダンスホール『銀の花』のマスターが、信念を持ってアピールしてきたこと、それは「北陸三県のダンスの上手な美男美女、全員集合!」というスローガンです。マスターいわく、信念をもってアピールし続けていたら、そうなるそうですよ。スローガン、ウソでもそう言っていれば、本当になるの? その悪い例がヒトラーとか。かつて、美しいものを見たいという人は『銀の花』へと紹介しました(第183話)。ダンスホールのマスターが侍らせているカウンターを彩る美女軍団の美しさは、まさに銀の花です。ダンスパーティーの入場料は1000円。たった1000円で、美女達を愛でながら何時間もダンスと会話を楽しめるのですよ。しかも最上級のコーヒーとお菓子付き。北陸を代表する片町のクラブ街も良いでしょうけど、銀の花はコスパ最高です。美しいのはお店の人ばかりではありません。そこに集うお客さん達も、マスターの信念の賜物でしょうね。北陸三県のダンスの上手な美男美女が、まさに集合しているのですから。
 
 さらにマスターのこだわりは、お店のトイレットペーパーにあります。銀の花のトイレットペーパーは、駅や体育館など公共施設のトイレに置いてある、薄くて硬いトイレットペーパーとは違います。女子トイレには、3種の美しいトイレットペーパーが用意されています。薔薇の花のレリーフが入った厚地のピンク色で香り付きのもの。そして淡いピンク色にレリーフ入り、紫とピンクの優しい花がプリントされた2種類の柄のトイレットペーパーも素敵です。こちらの紙は上質で柔らか、白いレースの籠に入っています。お店の美女が選んだのかと思いきや、トイレットペーパーもマスターのこだわりだそうですよ。あまりにも可愛いので、トイレで見とれてしまいました。マスターのこだわり、さすがです!(笑)
 
 
☆トアルコトラジャ:インドネシアのスラウェン島のトラジャ地方のみで産出されるコーヒー豆。希少価値の高いコーヒー豆として、コーヒー好きに愛されています。
著者 眼科 池田成子