社交ダンス物語 358 ダンス選手権新潟県大会

コラム

 ダンサーは早起きだ。午前3時にセットした目覚ましの音で飛び起きる。今日は関東甲信越競技ダンス選手権新潟県大会の日だ。会場は小千谷市総合体育館。自分たちはシニア選手権、ラテンアメリカンにエントリーしている。髪をセットし、おとなのふりかけ(第103話・第279話)をかけ、メイクし、身支度の後、チェックリストで忘れ物がないかを確認。××を患うパートナーは、『命の薬』も忘れずに服用。Withコロナ、With××の時代と言われますが、食欲のあるうちは大丈夫? お昼用の手作りサンドイッチ(卵と照り焼きチキン、コールスローとスライスチーズの2種)を詰めて、午前6時にマイカーで糸魚川からいざ出陣。
 
 午前7時前、途中の米山サービスエリアで休憩。
リーダー:「関東甲信越の選手がいるかも…。」
ダンサーは常に、人に見られているを意識している。公衆トイレ、そこは競技会のフロア同然、全く気を抜けない所。リーダーは車から降りると背筋を伸ばし、視線を意識しながら公衆トイレへと向かった。助手席のパートナーは、爪に赤いマニュキュアを塗りはじめた。
「んんっ? 見えない!」
そこでリーダーの老眼鏡を借りる。眼科医が人の老眼鏡、しかも100円ショップで購入したものを使っている。笑われそうだ。ここで、眼科医からのアドバイス。良いメガネの条件は、度が合っていることだけではない。レンズの度が合っていても次の4つの条件を満たしていなければ、正しく機能しないばかりか、疲れ目の原因になります。
  • レンズと角膜頂点の距離(頂間距離)が適切(12mm)。
  • 視線がレンズの光学中心を通る。
  • 視線がレンズと直行している。
  • 乱視も適切に矯正されているもの。
 
 話をダンスへ。柿崎から柏崎へは一直線の下り道。ここでの制限速度は80キロ。いつしか〇〇キロまでスピートは出ていた。〇〇キロオーバーだ。ここは速度取り締まりが盛んに行われる名勝である。このままでは、うちのリーダーは免停か? そうなったら関東甲信越のダンス遠征の移動は、パートナーが車を出すことになる。再三にわたりリーダーに忠告するも、いたちごっこだ。(どうぞ、ご自由にお捕まりください。)
 
 無事、小千谷市総合体育館に到着。知人には、ビデオ撮影をお願いしてある。ダンスをしない人には、それがフツーなの? 前回お願いした時は、始めから終わりまで、試合中の二人の顔がどアップに映っていた。(涙)
リーダー:「顔を映すのではなく、頭のてっぺんからつま先まで、全身を映すよう指示してきたよ。ああ、これで決勝まで踊った達成感だ!」
リーダーはあっかりしたら(富山弁で安心するの意味)、トイレへ行きたくなったらしい。
 
 試合直前、背骨が完全にくっついていないリーダーは、コルセットを締め直している。
リーダー:「成子さん、肩の力抜いて。勝とうだなんて、思わなくて良いよ。」
パートナー:「そうよね。私たち病持ちだもの。」
リーダー:「勝とうだなんて、おこがましい。」
種目はルンバ、チャチャチャ、パソ・ド・ブレの3種目。準決勝では自分たちを含め、9組の選手がフロアへと入場。病持ちチビ・ハゲ、試合で勝たなくて良いと思ったら、摩訶不思議。今までは見えなかった周りの景色が見えてきたのです。余裕が出てきたということ? 最初の種目はチャチャチャ。陽気でコミカルな踊りというのに、踊り始める前からよその選手達は険しい表情をしています。(その顔、コワいよー)
 
 病持ちチビ・ハゲ、無事笑顔で準決勝を踊りきれた。決勝へ進出したカップルには、栄誉あるソロダンスが与えられるという。選手達はしばし、競技結果を待つことに…
リーダー:「成子さん、待ち時間にソロダンスの練習する?」
パートナー:「勝とうだなんて思うなと言ったのは、誰?」
リーダー:「お腹すいたよぉ。早く着替えて、サンドイッチ食べたい。」
 
 いよいよ結果発表だ。決勝へ進出する選手の背番号と名前が会場にアナウンスされる。名乗られたカップルは、拍手喝采のもとフロアへと入場。そしてソロダンスを披露する。最初にコールされたカップルは、優勝候補の選手だ。さすが、迫力あるチャチャチャの美しいソロダンスに見とれて、皆が拍手。次にコールされたカップルは背番号1、病持ちチビ・ハゲ?! 驚きである。とはいえ、「アンビリーバボー!」と本人たちよりも驚いたのは対戦相手、うちのコーチャー、そしてお客様でしょうか?(笑)
 
 
☆奇跡は起きると信じる人にのみ起こる。(笑)
著者 眼科 池田成子