「これで治りました!」
えっ!? もう治ったの? 放射線治療同意書には、「乳房内再発を優位に減少させ、生存率の向上を図る」と記されていますが…。
『××は本当に治ったのか?』
自分は医師なのに、放射線治療に対する知識は曖昧です。
そもそも、がん患者さんは、なぜ放射線治療を受けるのでしょうか? それは、がん細胞が正常細胞に比べ、放射線に弱いからです。それを利用して、病巣部に放射線を照射することで、がん細胞の死滅を図ります。放射線の単位には、シーベルト(Sv)とグレイ(Gy)があります。シーベルトは放射線を受けた時の人体への影響を表す単位で、人が受ける被爆の単位です。グレイは放射線のエネルギーが、どれだけ物質に吸収されたかを表す単位です。1グレイは1シーベルトとして換算されますが、全く同じではありません。(注1)放射線を雨に例えると、浴びた雨の量(グレイ)が同じでも、小雨より豪雨の方が痛く感じるように、人に与える影響(シーベルト)は異なります。ちなみに、1シーベルトの1000分の1が、1ミリシーベルト(mSv)。私たちは普段生活している時にも、宇宙、大地、食物から自然放射線による被爆を受けています。日本平均で、1人あたりが受ける自然放射線量は、年間約2.1mSvと言われます。ご存知でしたか?
曖昧からの脱却、さらに掘り下げて考察してみましょう。私たちは病院で検査のため、放射線を受けています。歯科撮影では0.01mSv、胸のX線集団検診では一回あたり0.06mSv、CT検査では10mSv前後を受けています。えっ? 病院へ行ったら被爆するって? ご安心下さい。全身に受ける放射線が100mSvより低い量で、人体への影響は確認されたことはないそうです。一度に受ける放射線の量が100mSvを超えると、受けた量に比例してがんになるリスクが高くなることも分かっています。ちなみに、全身に3〜5Gyの放射線を被爆すると、60日以内に半数が死亡し、被爆量が7〜10Gyに及ぶと、ほぼ100%の人が死亡するそうです。人の死亡の敷居線量は、1.5Gy。ちなみに、××の治療で自分が左胸に受けた線量は1回2.7Gy。土日を除く連日受けて、総線量は42.5Gyでした。(お前はもう死んでいる?)
いえ、死んでいません! 放射線は人に当たった量(グレイ)が同じでも、放射線の種類や体のどの部分に受けたかで、人体への影響(シーベルト)は異なります。とはいえ、自分は高線量被爆しました。放射線治療は発癌(将来別の癌ができること)のリスクがあります。被爆によるリスクよりもメリットは遥かに上回るとはいえ、ギガコワいのでY院長の仰せの通り××は治ったことにいたします。(苦笑)それにしても放射線治療で辛かったことは、服を着ることでした。火脹れた皮膚には摩擦は大敵。ブラジャーは拷問そのもの。(涙)帰宅したら、まずは服を脱ぎ上半身裸になります。職場では服を着ていましたが、自分は裸族の酋長になれそうです。曖昧から脱却といえば、ボールルームダンスもそう。ルンバで曖昧なのは、オープン・ヒップ・ツイスト、ファンからホッキー・スティックへ抜けるところ、クローズド・ヒップ・ツイストなど。
「チビ・ハゲ、それはルンバの基本中の基本動作だ!」
先輩達からお叱りを受けそうです。そもそも自分達はなぜ、試合で勝てないのでしょうか? それは何となく踊っているから。曖昧を確信へ。そのためには意識することが肝心。ダンスに限らず、手術も同じです。今年の自分たちの目標は、ダンスで曖昧をなくすこと。読者の皆さま、本年度もご愛顧賜りますようよろしくお願い申し上げます。
注1)シーベルトの値=グレイの値×放射線加重係数(放射線の種類による影響の違い)×組織加重係数(臓器等の組織の影響の受けやすさ)
著者 眼科 池田成子