先日、お坊さんからお裁縫を頼まれました。衣のほつれを直してほしいとのこと。
「なんで、自分で縫わないの?」
お釈迦様の時代は、僧侶は自分の衣のほつれは、自らが繕うものとされていました。お坊さんこと弟いわく、自分でほつれを繕おうとしたら、針で指を突き刺しまくり、衣が血だらけになったそうです。お坊さんが身にまとう白い襦袢(じゅばん)が、血で真っ赤に染まるだなんて想像したらコワすぎ。そこで姉がお裁縫を引き受けることに…。
和裁では、すべて手縫いが基本です。しかも縫い目をできるだけ見せないこと。それにしても、衣は派手にほつれています。ほつれすぎ! 何で、こんなに見事にほつれるの? その答えは「和裁」にあり。和裁は、ほどくことを前提に縫われています。ネットで検索して、お勉強いたしました。着物を仕立てる元となる反物は、江戸時代でも手に入りにくい高級なものだったそうですね。よって和裁はリサイクルを前提として、仕立てられています。長着(ながぎ)を羽織や帯にしたり、布団や座布団にしたりなど、別の種類のものに仕立て替えることは、昔はよく行われてきたそうですね。それにしてもお坊さんの袈裟や衣を、お尻に敷く座布団へリサイクル、想像するとワクワクします。(笑)
さて、手縫いで欠かせないのは「指ぬき」という和裁道具。仕立てのプロは、革から自分で作って使うそうです。自分は包帯で代用。(けしからん?)利き手の中指に包帯をグルグル巻き、そこに針のお尻を当てて親指と人差し指で針をつまんでチクチク。和裁は針に布をひっかけてゆくように、針に対して布をナミナミさせて縫うのが基本です。んっ? うまく縫えません。そこでYouTubeで手縫いが上達するという動画を見ました。驚くことに、和裁の先生のお言葉は、まるでダンスのレッスンで言われていることのよう。滑らかな動きをするためには、リズムにのって「送り」が大事である。まっすぐに縫うためには、体を固めてはいけない。親指だけ押すのでなく、手首を返してバレリーナのような丸い感じで肩を開く。指だけ使うのはダメ、針が曲がってしまうそうです。(ダンスも足だけ前に出すのはNG)呼吸も大事、息を止めてはならないとのこと。(踊っていて、踏ん張って息を止めちゃうことも…)そして和裁では「軸」が肝心だそうですね。効き目と利き手の親指の爪、その下の太腿の中心が一直線になるように、太腿の中心を刺すように縫うこと。そして肩幅を意識。
上達への近道は、『手術』と『ダンス』は相通じるものがあると、かつて書きました(第322話)。このたび衣の修理をさせていただき、お勉強いたしました。『和裁』の上達も『ダンス』と相通じるものがあったのですね。眼科手術で使う針は、極めて繊細です。手術終了時に使った針を見れば、その執刀医のレベルが分かります。ベテランが使った針は、形もキレも良いまま。執刀医が初級者の場合、針先はベコベコに変形してキレは悪くなります。和裁の針も細くて繊細です。自分の場合、衣を縫い終えて針を見たら、針は見事に湾曲していました。(涙)なお手術では、終了時に使用した針の本数を数えます。自宅のマンションは寒いので(第341話)、このたび糸病の女医更衣室のソファーに腰掛けて、お裁縫させていただきました。縫い終わって、待ち針の数を数えたら一本足りません。
「ジーザス!」
女医更衣室は、手術室さながらです。針が見つかるまで、退室することは許されません。女医さんのお尻に刺さったら一大事。眼科医、机やソファーをずらして目を皿にして針を探す…。
「あった!」
ナムナム合掌。(笑)
☆「和裁」「手術」「ダンス」基本は同じ。
著者名 眼科 池田成子