社交ダンス物語 341 真冬のキッチン

コラム

 皆さん、こんにちは。糸病・眼科の池田です。2月といえば、何をイメージなさいますか? 節分にバレンタインデー、確定申告という方もいらっしゃるでしょう。私の場合、2月のイメージは「寒い!」の一言に尽きます。自分は7月生まれのためか、暑さには比較的強いのですが、寒いのは苦手です。賃貸で住ませていただいているうちのマンションのお部屋は、石油ストーブは使用禁止です。エアコンだけでは寒すぎ。帰宅したら、まずは日本酒をグラスでぐいっ。ロシア人がウォッカを飲むキモチが良く分かります。それからキッチンに立ち、ガスコンロでお鍋にお湯を湧かします。お鍋から湯気がたつと、顔を近づけます。
「んーッ、温かい。あちち!」
お鍋に蓋をかぶせて、その上に手をかざして暖をとります。

「真冬のキッチンに立つのは辛い。」
女医さん達からの声を聞きます。キッチンの床にはフワフワのムートンを敷いていらっしゃるそうですよ。真っ白のムートンを敷いているという女医さんもいます。自分はあいづちを打ちながらも、「はて?」と首を傾げます。ネギや大根に付いた泥を台所の流し台で洗い流すと、泥や水が床に飛び散ります。コンロに火をかけて炒め物や揚げ物を作る際には、必ずと言って良いほど油が飛び跳ねます。ピーマンの種は床にこぼれるわ、手動で挽いたコーヒー豆を派手にまき散らすわ…。自分の場合、キッチンの床に真っ白なムートンを敷こうものなら、瞬く間に目も当てられぬ悲惨な光景となり、ムートンはダニの宝庫となるでしょう。

 さて真冬のキッチン、そこは我が家で一番温かくて、自分にとって快適な場所です。壁にカビが生えたらいけないという理由で、お部屋ではファンヒーターも使用禁止、ガスストーブもつけられません。そこで、キッチンのガスコンロで暖をとります。お鍋にショウガと水を入れて、お湯を湧かします。湯気でショウガの香りがふわりと漂い、アロマ効果を満喫。一日の疲れが癒されます。キッチンでお酒を飲みながら、お料理を作るのは至福の時間です。えっ? キッチンドリンカーですって?(笑) そういえば、大学生の頃に読んだ吉本ばななさんのベストセラー短編小悦、『キッチン』を思い出します。キッチン、そこは主人公の女の子にとって、この世でいちばん好きな場所。私もキッチンが大好きです。真冬のリビングの床掃除は辛いですが、キッチンの床ならピカピカに磨けそう。(笑)

「真冬の真夜中に、ひたすら台所の床を磨くだなんて、酔っぱらいの為せる技だ。」
はい、そう言われても反論の余地はありません。でも、真冬のキッチンは、私にとってダンスの練習に欠かせない神聖な場所でもあるのですよ。『ダンス道場』といえる病院の講堂でダンスの練習をしますが、冬は寒いし床はカーペット。ザラザラして、靴底がひっかかります。他方、自宅のキッチンの床はフローリングです。そこではスリッパは履きません。幅7.5センチの板目の上を、靴下のままルンバウォークします。チャチャチャの前進後退ロック、そしてスリーチャチャチャからチェイスのステップも踏めます。床を滑らすように小指からついて親指への体重移動、バランスを意識しながらキッチンの床を約3メートル行ったり来たりの繰り返し。シューズは履いていませんが、ボールルームダンスの動きの繊細さが、ひとしお感じられます。湯気が沸き立つ真冬のキッチン、そこはダンスの練習に夢中になれるハピーな場所。え? アブナいですって? はい。火の用心には、くれぐれも心がけます。(笑)


☆床は全てがダンスフロア!

著者名 眼科 池田成子