社交ダンス物語 374 リーダーとパートナーの会話 41

コラム

 病院の講堂には、ダンスの練習に挑戦する病持ち50代独身男女の姿あり。脊柱管狭窄症の手術を受けて背骨が完全にくっついていないリーダーと、××の放射線治療を受けて6ヶ月経過したパートナーです。かつては湯水のごとく質の低いダンスを踊りまくっていた二人ですが、今では一曲一曲が命。ヨロヨロとルンバウォークをしながら、よもやま話をしています。
 
パートナー:「あなたも私も、結婚しなくていいの?」
リーダー:「僕はダンスと結婚した。」
パートナー:「この年になって結婚するなら、死に死にのお金持ちのジジイか、活きの良い若い男よね。」
リーダー:「……。」
パートナー:「若い男やお金持ちだなんて、ハードル高すぎ! 現実に目を向けなきゃね。同年代の男性なら、ほんのちょっとでいいの。私よりもお給料を多くもらっていて、預貯金のある人。」
リーダー:「……。」
パートナー:「お金なんて、なくてもいいのよ。年齢も関係ないわ。ダンスで私を満足させてくださる男性となら、是非とも結婚したいわ。」
リーダー:「……。」
パートナー:「ところで、再来週に大学病院の外科を受診するの。××の治療を受けた患者さんは、セルフチェックするよう薦められているの。左のおっぱい触ったら、カチカチ。××の再発なのか手術による瘢痕(しこり)なのか、自分では分からないわ。1年後、アタシ生きているかしら?」
リーダー:「……。」
パートナー:「うちの病院のY院長に聞いたら、笑顔で言っていたわ。すぐには再発しないって。死ぬ前に、ダンス昇級してちょうだい!」
リーダー:「はい。」
 
 生は偶然、死は必然。今日一日を生きていられるのは奇跡? チビ・ハゲ、今を感謝して踊ります!(笑)
著者 眼科 池田成子