社交ダンス物語 375 コーチャー 一喝! 新潟県大会

コラム

「痛っ!」
 土曜日の朝の出来事です。リビングの重い椅子を持ち上げようとして、不幸にも椅子の脚が右足の小指の上に落下して強打。痛くて靴を履くこともままなりません。入院患者さまの朝の回診を控えていたので、びっこをひきながら根性で病院へ向かいました。小指は赤黒く腫れ上がっています。
『骨折したのかしら…』
回診の後は、リーダーとダンスの練習の予定が入っていました。ところが、ダンスの練習どころではありません。痛くて、ラテンもスタンダードもダンスシューズが履けないのです。来週末には関東甲信越ブロックの新潟県大会を控えています。幸い靴を履かない状態なら歩けますし、なんとか踊ることもできそうです。
 
パートナー:「靴履かないで、大会に出ても良いの?」
リーダー:「試合中に靴が脱げて、そのまま踊っている選手は見たことあるけど、靴履かないでフロアへ入場する選手は見たことないよ。」
ジーザス! そこで医局にいた整形外科のO先生をつかまえて、右足の小指を打診していただきました。レントゲンを撮らなければ、はっきりしたことは分からないそうですが、骨にヒビが入っている場合は2週間痛いそうです。来週は新潟県大会、再来週には長野県大会を控えていると伝え、O先生にSOS! 踊る30分前に痛み止め(ロキソニン)を飲んで、試合に臨むようアドバイス頂きました。痛みへの奥義ですね。(第157話)ちなみに、外国人選手は日本人の倍量のロキソニンを飲むそうです。ためしにロキソニンを飲んで、靴を履いてみました。靴はなんとか履けました。でも痛くて踊れません。大会までに奇跡的に痛みがとれて、踊れますようにとリーダーは切実に願っています。
 
 新潟県大会の前日、奇跡なんぞは起きません。痛くてダンスシューズは履けません。リーダーはガッカリ。その日は高田でレッスンを受ける予定になっていました。ダンススクールで事情を説明して、明日の大会は欠場する旨をコーチャーに伝えました。「まあ、かわいそう。」「お気の毒に。」「お大事にね。」といった慰めの言葉がくると思いきや、コーチャーは一喝!
「あなた達は、コンペティターでしょ!」
チビ・ハゲ、目が覚めました。その日パートナーは、靴を履かないで、靴下でレッスンを受けました。コーチャーは先ず、リーダーに一人でタンゴを踊るよう指示。足元がフワフワしていると指摘。今まで二人で踊ってばかりいて、シャドウを怠っていたからとお叱りを受けました。次はパートナーにシャドウを指示。今までリーダーに頼っていたので、踊りは曖昧です。迷いながら踊ってはいけないとコーチャーは力説。しごかれること1時間。コーチャーも現役時代は足の指を負傷して、靴が履けなかった辛い経験があったそうです。レッスンを終えて、最後にダンサーの痛みへの奥義をアドバイス頂きました。痛い指があたる靴の部分をくり抜きなさいとのこと。遠くから見たら、分からないそうです。
 
 帰宅したら早速、仰せの通りスタンダードのダンスシューズの小指があたる部分に、カッターとハサミで穴をあけて、くり抜いてみました。なんとも奇妙。女子のラテンのシューズは構造上出来ませんので、今回はスタンダードのみの出場です。コンペティターは、試合で戦う以外の選択肢はなし。当日、ロキソニンをガツンと飲み、穴を開けたダンスシューズを履き、フロアに立ちました。新潟県の選手が地元で開催される新潟県大会に出ないなんて、さみしいこと。コーチャーにコンペティターの、ど根性を見せなければ…。試合ではアドレナリンが噴出しているのか、痛みはさほど感じず。チビ・ハゲ、踊れる歓びに感謝して、踊る、踊る、踊るっ! クイックステップでは、背骨が完全にくっついていないリーダーも痛みを忘れて無我夢中でホップ・シャッセの連続。結果は…二次予選敗退。普通なら2回しか踊れなかったとガッカリするところですが、今回は2回も踊れました。関東甲信越競技ダンス新潟県大会、負傷してもコンペティターとして出来ることはやり切ったので、結果はともあれ気分爽快なチビ・ハゲでした。(笑)
 
☆翌日右足の状態は、第157話の「その3」のごとし。昭和で通用していた「根性論」も、現代では時代遅れ?(涙…笑)
著者 眼科 池田成子