社交ダンス物語 383 ベーシック VS バリエーション

コラム

 ボールルームダンスのステップには、ベーシックとバリエーションがあります。ベーシックとは、ボールルームダンスの教科書にのっているダンスの基本的なステップです。バリエーションは、さらに踊りを映えさせ、進化させたもの。えっ? ダンスのベーシックにバリエーション、なんじゃらほいですって? はい、ひと言でご説明いたします。地味でシンプルなステップがベーシック、派手で見栄えの良いステップがバリエーションです。ダンスの競技会では主に、バリエーションが用いられます。例外として初級者ノービス、ジュニアの部においては、ベーシックのみで踊ります。自分たちチビ・ハゲの場合、ラテンではバリエーションのステップが少ないのが現状。出来が悪いのでコーチャーからステップをカットされ、数そのものがなくなってしまいました。競技会でチビ・ハゲの踊りを見てくださったプロの先生から、もっとバリエーションを取り入れたらどうかと、コーチャーは意見されたそうです。
コーチャー:「音もとれていないのに、バリエーションはありません。」
 
 はい、ごもっとも。(涙)チビ・ハゲ、ラテンではチャチャチャは音を外して、早くなってしまいます。(音に遅れまいと、慌てて踊る)ここで、基本であるベーシックとバリエーションの違いを掘り下げて考察してみます。ベーシックは、ごまかしがきかないステップと申し上げて過言ではないでしょう。一斉にベーシックで同じステップを踏ませたら、如実に踊りのレベルの差が現われてしまいます。毎年6月に東京で開催される日本インターナショナルダンス選手権大会では、決勝進出を決めたカップルは、ソロダンスを披露します。規定のベーシック・アマルガメーションを踊った後に、バリエーションへと移ります。プロといえどもベーシックは硬い表情、バリエーション(自分たちのステップ)に移ると、水を得た魚のように表情は生き生きとなりますね。トッププロでもベーシックで魅せるということは、難易度が高いのでしょうか。かつてプロのラテンアメリカンで、当時世界ファイナリストのフィリッポ組がチャチャチャの前進ロック(ベーシックそのもの)を繰り返していました。これでもか!というくらいに。フィリッポ組のベーシックはまるで別物。思わず息をのむ美しさ。その粋なパフォーマンスに、会場は沸き上がりました。
 
 さて、ベーシックにバリエーションといえば、身近なものにもあります。お料理を例にあげてみましょう。基本の肉じゃがは、具材は4つ。お肉、ジャガイモ、タマネギにニンジンとシンプルです。お好みで、糸こんにゃくを入れることもあります。調味料は、しょうゆ、砂糖、みりん、酒、だし。バリエーションには、焼き肉のタレ肉じゃが、めんつゆ肉じゃが、味噌じゃがなど。お安くあげるなら肉の代わりにちくわじゃが、レバーのつけ汁に水を足して煮込むレバー肉じゃが、コーラで煮るコーラ鶏じゃが、ピリッとひきしまった味になるキムチ肉じゃがなどがあります。30年愛用している料理の教科書(主婦の友 特別編集 365日のおかず革命)にのっています。ベーシックの肉じゃがは、文句無しに美味しいです。バリエーションで一押しは味噌じゃが。ひき肉を炒めて、味噌を加えて炒め合わせます。そこへ小さめに切ったジャガイモを入れ、だし汁、砂糖、しょうゆ、みりんで調味して煮込みます。汁けがなくなったら、きざんだネギを加え、よくからめます。ご飯にもお酒にも合う一品ですよ。ただし例外として、バリエーションのないお料理もあります。筑前煮がそう。アレンジしてしまえば、筑前煮は筑前煮ではなくなってしまいますので。基本にとても忠実。ベーシックで勝負する格調高きお料理です。(第301話)
 
 話をダンスへ。自分たちは今、ベーシックを見直しています。とはいえ、正直バリエーションに憧れます。そういえば競技ダンス駆け出しの頃、タンゴでヴェニーズ・クロスからシャッセ、ダブル・オーバースウェイを披露したら、観戦していた母と弟が形相を変えて、チビ・ハゲのもとへ駆けつけてきたことがありましたね。
「みっともない! 頼むから、そのステップはやめてちょうだい!」
ダンスをしない人の目からも、当時のチビ・ハゲのバリエーションは滑稽を通り越して目を覆いたくなった? 急がば回れ! 基本に忠実に。曖昧をなくし、ごまかしのない踊りを目指します。読書の晩秋に、ISTD発行ボールルームダンスの教本を開くのも乙なものですよね。
 
 
☆えっ? 本なんて開かないですって? スマホやSNSの普及で、今や国民の3人に2人は月に一冊も本を読まない時代だそうです。
著者 眼科 池田成子