2022年度、後期競技会もたけなわです。自分たち病持ちは、3年ぶりに大会に出場いたしました。競技選手として往生際の悪さは天下一品です。脊柱管狭窄症で腰の手術を受けたリーダーは(第309話・310話)、背骨の骨がまだ完全にくっついていません。出て1回負け(一次予選敗退)。出るだけです(苦笑)。病持ち、競技会のフロアに立たせていただき興奮いたしますが、選手控え室でも「えっ?」とエキサイトいたします。パートナーさん達(女子)が、競技用ドレスに着替えている時のことです。
『あんなに上品で綺麗なパートナーさんが…。』
美女達の足の爪は変色して分厚く盛り上がり、変形しているのです。『美』を競い合うボールルームダンスの競技会においては衝撃的? お顔の美しさと、おみ足のギャップに眼科医ギョッ!(ムンクの叫びマーク)
そんな自分も、恥ずかしくてここ数年、夏場は素足でサンダルを履くことができませんでした。自分の両足の親指の爪は、黒く変色しているからです。競技ダンスをする前は、足の爪の色はピンクでした。しかし、リーダーと組んで競技を始めるようになってから、足の爪に異変が生じたのです。
「ひょっとして、水虫では…。」
当時、皮膚科を受診しました。ドクターから「爪水虫」と診断を下されました。そして、水虫の内服薬を処方されました。水虫の飲み薬って、結構高いんですね。しかも副作用として、肝機能障害があります。診察の度に、血の検査が必要となります。自分はただでさえ、呑ん兵衛です。肝臓がやられるというリスクに怯えつつ、呑ん兵衛は6ヶ月間、覚悟を決めて酒と爪水虫の薬を飲み続けました。しかし、爪は一向に良くなりません。
「爪水虫ではないのか?」
ドクターは首を傾げています。薬はやめましょうと言われました。
「私は水虫ではなかったの?」
悶々とした気分です。水虫の薬をやめて数ヶ月後、爪の色はむしろ良くなったようにも思えます。謎が解けません。爪水虫の治療に費やした、時間とお金とエネルギーは何だったの? 先輩医師に、切ない気持ちを打ち明けました。
「そんなもんですよ。」
先輩はニヤニヤしながら、頷いています。爪はあれから数年変わりませんが、見た目が気になります。薄黒いままです。分厚くはなりませんけど。これって水虫? 水虫ではないの? 奥歯に物が挟まっているような感覚。そこで勇気を出して、先日皮膚科を受診しました。大学から来た非常勤の先生は、拡大鏡で爪をのぞいて一言。
「水虫ではありません!」
お医者さんの間では『後医は名医』という恐るべき金言があります。黒いのはメラニンの沈着だそうですよ。世の中、似て非なるもので溢れていますよね。(第165話)カニとカニかま、ブランド品と偽ブランド品のバッグや時計などなど。
ちなみに『水虫』とは、食品にカビが生えるのと同じように、皮膚に白癬菌(はくせんきん)というカビの一種が生えてしまった状態です。菌は見えないだけで、どこにでもウヨウヨしています。冬場ではブーツで足がむれやすくなりますので、これからの季節は要注意です。予防は1)身近な人の水虫治療 2)足はいつも清潔に 3)靴を脱ぐ時間を作る。むれやすい環境を減らす。などなど。アマチュア競技選手の皆さまへ。熱心に長時間ダンスの練習をなさるのは素晴らしいことです。でも、たまにはシューズを脱いで、足の指を呼吸させてあげて下さいね。長時間靴を履いていると、水虫の原因になりかねません。視覚障害の上位を占める緑内障や糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症と同じです。水虫になったら、早期治療が何よりも大切。「水虫はオジさんがなるもの」と思われがちですが、意外にも3人に1人の女性が水虫予備軍だそうですよ。あなたの足は大丈夫? 眼科医、この場をお借りして、熱く『水虫』を語らせていただきました。
☆競技会場の選手控え室にて、チビ・ハゲの隣にシートを引くのはコワいと思っていらっしゃるアマチュア競技選手のパートナーさんへ。大丈夫です。医師の守秘義務は固く守ります。(グーマーク)
著者名 眼科 池田成子