社交ダンス物語 331 チビ・ハゲが帰ってきた

コラム

 皆さま、こんにちは。糸病眼科の池田です。糸病エッセイ、社交ダンス物語をご愛読いただき、ありがとうございます。脊柱管狭窄症で、ダンスどころか日常生活もままならなくなったリーダーは、昨年の7月に腰の手術を受けました(第309話・310話)。パートナーも病を患い、トイレでの一連の動作もままならず(第267話・268話)、ここ3年近く試合を欠場していました。自分達が踊っている姿を想像することは出来なかったのですが、再び競技会のフロアに立ちたいという一念で、うちのリーダーは地道なリハビリを続けてまいりました(町内のお散歩を毎日30分)。お陰さまでチビ・ハゲ組は、競技会の一種目を踊りきるまでに回復いたしました(1分30秒間、踊り続ける可)。競技選手として往生際の悪さは天下一品です。大会に向けて準備を始めました。
 
 まずは戦闘服をチェック、燕尾服と競技用ドレスです。3年間クローゼットに入れたまま。どーなっているの? 白カビ生えてない? セーフ(笑)。でも、果たして着られるの? リーダーは10キロ痩せたので、エンビはブカブカです。
「え” ? どこに腕を通したら良いの?」
着替え用ポンチョをつけた状態で、パートナーはスタンダードのドレスを着ることが出来ません。それからダンスの小物の点検をしました。チビ・ハゲ、3年近く試合から遠のいていたら、今まで当たり前のことが、出来なくなっていました。リーダーはカラーと蝶ネクタイ、カフスの留め方が分からなくてフリーズしています。パートナーは付けまつ毛がつけられなくて、鏡の前で奮闘。そもそも付けまつ毛のノリ、乾燥してカチカチです。もしや…。予想は的中いたしました。顔に塗るドーランもカチカチ。しぼっても内容物が容器から全く出ません。(ナージャさん、助けてください!)

 ナージャといえば、ダンスメイクアップの専門店(第303話)。競技ダンスは踊りや衣装ばかりではなく、メイクも命です。勝つためのメイク、競技選手のパートナーさん達のアイメイクは凄まじいですよ。まさにサバンナの猛獣のイメージ。(笑)ラテンは「目ジカラ」が命です。試合が終わると、競技会場でメイクを落とす方がほとんどです。去り際にすっぴんで、チビ・ハゲに会釈してくださいます。自分たちも笑顔で会釈いたします。内心は…。
『どなた様でしょうか?』
これは、ある美容師さんから聞いたお話です(第324話)。その美容院は富山市の歓楽街、桜木町の近くにあります。バブルの頃は水商売のお客さんで賑わっていました。お仕事前に、髪をセットしてもらった水商売のお姉さん達は、いとも素早く付けまつ毛を付けていたそうですよ。今では、まつ毛エクステでしょうけど。お客さんとのデート(同伴出勤)で付けまつ毛なし、ナチュラルメイクで待ち合わせの場所にいたら、男性客は彼女とは気付かず、素通りしてゆくというお話も…。実に頷けます。(笑)

 メイクで脱線いたしました。ここで締めくくりたいと思います。かつては歩くことはおろか、立つこともままならないリーダーでした。自分たちは病を患い、ダンスを断念せざるを得ない状況に置かれていました。踊れなくなって学んだこと、それは踊っていられるって本当に素晴らしい。本来、競技ダンスは勝つためのダンスです。病気になる前は、勝ちたい、勝ちたいと、がむしゃらに踊っていました。今やチビ・ハゲ、勝ちたいだなんて、そんなおこがましい気持ちは微塵もありません。病持ち、再びフロアに立たせていただけるだけで感無量です。2022年度の後期競技会では踊る喜びをかみしめ、感謝の気持ちを込めて踊らせていただきます。皆さまどうか、チビ・ハゲを応援して下さいね。(笑)


リーダー:「成子さん、フロアでは本当に立っているだけかも…」
パートナー:「フロアに立てるだけで光栄です。」

著者名 眼科 池田成子