社交ダンス物語 330 死んだふり

コラム

 皆さま、こんにちは。糸病・眼科の池田です。暑い日が続きますね。熱中症予防に、こまめな水分補給を。さて、先日実家のお寺へ行った時に、お野菜をお裾分けしてもらいました。袋の中にはごっそりと土のついたお野菜が入っていました。門徒さんが、自家栽培のお野菜をお寺に届けてくださったのでしょう。帰宅して台所の洗い場で、野菜に付いている土を洗い流そうとしたところ、何やら動くものが…。
「ミミズ!」
暑い夏、ミミズは地中深くに潜んでいると思いきや、野菜に付いて出てきたのでした。昔は多くみられたミミズ、最近ではあまり見かけなくなりましたね。ミミズがいるということは、その土は良質という証でしょう。

 安全な場所に、ミミズを保護しなければなりません。『命』は尊いのです。生まれたばかりの赤ん坊の命も、天寿を全うされつつある老人の命も、アリの命も等しく尊いというのが、お釈迦さまの教えです。元・寺の娘は、ミミズをそっとビニール袋へ移しました。(とはいえ寺の娘、ゴキブリを見たら反射的にスリッパでパン!)
「どこに、ミミズを避難させようかしら?」
自分の住ませていただいているマンションの花壇は日当りが良いので、ミミズはミイラになってしまいます。鳥など敵にさらされるキケンもあります。道路をはさんで、向かえのお宅のお庭は草木が茂っていて、ミミズにとって良さそうな環境。でも、人さまのお庭に勝手に入り込んだら、不法侵入の罪に問われちゃう?
「あそこが良いわ!」

 車を走らせること5分。行く先は、糸魚川総合病院。病院の裏の花壇は日当りが悪くジメジメしていて、葉っぱも茂っており、ミミズにとっては安全で快適な場所といえましょう。病院に到着して助手席のミミズを見ると、のびたようになって、ピクリとも動かないのです。
「死んじゃったの?」
休日の早朝の病院、そこには人の姿はまばらです。自分はミミズをビニール袋から慎重に取り出しました。花壇の葉っぱをかき分け、日陰となる土の上へミミズをそっと置きました。しばし観察していましたが、ミミズは全く動きません。そこで、指でつっついてみました。ミミズはダランとのびたままです。仕方ないので、そのまま病院の建物の中へ入り、徹底した手指消毒の後に入院患者さまの朝の回診を始めました。回診を終えて、帰り際にもう一度ミミズの様子を伺うため、花壇へと向かいました。
「いないっ!」
先程までピクリとも動かなかったミミズの姿は、そこにはないのです。帰宅してネットで検索しました。すると、多くの昆虫は敵から逃れるために「死んだふり」をするそうですね。科学用語で「擬死」とか「接触後不動」と呼ばれるそうです。ゴキブリの死んだふりは散々見てまいりましたが、ミミズは今回が初めてです。

 死んだふり、ミミズは生きていてくれて、ほっといたしました。研修医だった30年以上昔は、自分もミミズと同じ「死んだふり」をしていましたね(第290話)。古き良き時代は、先輩医師から蹴りやカルテの角が飛んで来るのは、ザラなこと。医局にいて、コワい先輩が入ってくる気配を感じたら、自分は長椅子の上に横たわりピクリとも動かず。昆虫たちと同じですね。今となっては笑い話ですけど。さて「死んだふり」、競技ダンスでもありましたね。ラテン5種目のひとつ「パソ・ド・ブレ」、これは闘牛をイメージした踊りです。パソ・ド・ブレといえば、世界ファイナリストのセルゲイ選手の踊りに目が釘付けになります。UK選手権での決勝のフィナーレ(ジャーンという音がする終わりのクライマックス)で、闘牛士(セルゲイ選手)が牛(パートナーのメリア選手)にとどめを刺します。牛はフロアへうずくまりました。拍手喝采と声援を浴びる中、闘牛士はパチンと指で合図、するとフロアに倒れ微動だにせぬ牛(美女)は、極上の笑顔で起き上がりました。観衆は沸き上がりましたね。素敵なパフォーマンスです!(笑)


☆クマに遭遇した場合、死んだふりはNG行為。「オイっ」と穏やかに声をかけ、落ち着いて両手を大きく振りながら後ずさりしましょう。ラテンダンサーなら、メイク・ザ・レインボー!自分を大きくみせることが肝心です。

著者名 眼科 池田成子