社交ダンス物語 326 ないっ!

コラム

 ある筈のものがなくて、大騒ぎされたことはありませんか? 先日自分は、大騒ぎしました。ないのは、愛用していた貝印のステンレス製のピーラーです。野菜の皮むき器ですね。使用後は丁寧に洗った後、すぐにタオルで拭いて、キッチンの上から2番目の引き出しの中にしまっていました。それが、ないのです。
「酔っぱらって、とんでもない所にしまったのでは?」
うちのリーダーは、そう言っています。かつてリーダーの自宅でも、「ない!」で騒いでいた時期があったそうです。生協から自宅へ届けられた食材が、消えているのだそうです。洗面所から異臭がして棚を開けたら、棚の中からお魚が出てきたそうですよ。同居していたリーダーのおばあさん(第224話・第284話)が冷蔵庫と間違えて、お魚を洗面所の棚にしまった模様。ちなみに、リーダーのおばあさんは家中の家電のコードを「ネズミ」と間違えて、ことごとくハサミで切断なさってしまわれたというから、スゴい!(涙…涙)

 ピーラーは一体どこにあるの? 眼科医は目を皿のようにして、キッチンを探しました。引き出しの中味を全部取り出して、入念に確認しました。しかし、キッチンには見当たりません。リーダーのおばあさんの前例もあります。これは人ごとではありません。冷蔵庫の中、洗面所の棚、押し入れの中など、マンションのお部屋のありとあらゆる所を探しました。でも、見つかりません。電子レンジの中、洗濯機の中、そして下足箱の中も…。念のため、ゴミ箱の中も探しました。そこにも、ありません。
パートナー:「あなたが盗ったんじゃないの?」
リーダー:「成子さん、認知症だ!」

 ないものは仕方ありません。ないものは、ないのですから。ここで、「ない!」で思い出しました。こんな笑える(笑えない?)エピソードがあります。
「メガネがないわ!」
形相を変えて母上は(第93話・第186話)、メガネを探しておられます。見当たらなくて当然です。メガネは母上の頭上に、ワイヤレスヘッドフォンのようにのっているのですから。
「チケットがない!」
無事クルーズを終えて(第53話)、帰宅途中の東京駅のプラットホームにて。じきに新幹線が来るというのに、弟は大慌てでコートやカバンの中を探しています。先程まであったJRのチケットが、見当たらないのだそうです。
「あった!」
ガラケーの折りたたみの中に、ジャストサイズでチケットが挟まっていました。そんな時代もありましたね。

 最後に、ある筈のものがないといえば、ボールルームダンスの競技選手にとっては何と言っても自分たちの『背番号』です。結果発表は今ではスマホで確認できますが、当時は次のラウンドへ進出できる選手の背番号は紙に表記され、掲示板に貼り出されていました。予選から本戦へ。掲示板の前では我先にと押し合いへし合いです。(第249話)そして、リーダーさん達のどよめきが…。
「ない!」
「ないっ!」
「ないーっ!!」(ムンクの叫びマーク)


リーダー:「ある筈なのに、ないっ!」
パートナー:「はじめから、ないのよ。」

著者名 眼科 池田成子