皆さま、こんにちは。糸病眼科の池田です。お恥ずかしながら読者の皆さまに、眼科医であるがゆえの悩みをここに打ち明けます。それは患者さまが、見てほしい方向を見てくださらない時。
眼科医:「下を見て下さい。」
眼底検査で、患者さまに下方視をお願いします。でも患者さまは、上を見ていらっしゃいます。しかも検査されていない方の目を、ぎゅっとつぶって。
眼科医:「目はつぶると上を向きます。両目を開けて、下をご覧になって下さい。」
しかし患者さまの目は、上を見たまま。
眼科医:「私の靴下を見て下さい。親指の所、穴あいていませんか?」
すると患者さまの視線は、ストンと下へ…。ほっ。
「見てちょうだい!」
お子様は、さらに手強し。斜視検査では、お子様の眼位(両目の向き)をみます。しかし、見てほしい方向を見てくれません。
眼科医:「ピカピカ見て!」
目に光を当てようとしたら、ぎゅっと目をつぶられてしまいました。
眼科医:「先生の鼻に、はなくそ付いていない?」
コロナ前は、そう言っていましたね、お子様は、ぱっと正面視してくれました。(笑)うちの病院の眼科診察室の壁には、うさぎとカメの絵が貼られています。右目の眼底検査をする時はうさぎを、左目を検査する時はカメの絵を固視していただきます。しかし、暗い診察室でお子様をおだてても、大人の言う事など聞いてくれません。
眼科医:「カメさんのしっぽに、うんち付いていない?」
するとお子様、嬉しそうにカメの絵をご覧になります。
「そこ、見て下さい!」
はい、なんと言っても一番手強いのは、手術室でキョロキョロなさる患者さまです。目の手術はよほどのことがない限り、局所麻酔で行います。よって、患者さまのご協力が必要となります。
眼科医:「左下を見て下さい。」
白目に針を刺して、目の中に薬物を注入する治療(硝子体内注射)を行う際に、患者さまにキョロキョロされたらギガ危険。とんでもない所に針が刺さったら一大事。執刀医は法廷と背中合わせです。(涙)白内障手術の時もしかり。眼科手術はマイクロの世界、眼科医は手術用顕微鏡をのぞきながら、患者さまの目を執刀しています。
眼科医:「光の玉が二つ見えますよね。一番まぶしい所を見て下さい。」
目の手術をしている時にキョロキョロされたら、眼科医の血圧は200を振り切る? 緑内障や糖尿病網膜症のレーザー手術もそう。眼科医はターゲットに狙いを定め、ピンポイントでレーザーを照射します。想定外の所にレーザーが当たったら、患者さまの視力を奪いかねません。キョロキョロ動く目にレーザー治療を行うということは、ヒットマンが逃げ回る獲物を一撃で仕留めるに等しい?(涙)
「見て!」
そう叫びたくなるのは、眼科診療ばかりではありません。ダンスにおいても然り。うちのリーダーと、病院の講堂でダンスの練習をしている時のことです。
パートナー:「アイ・コンタクトがない!」
ルンバ、それは男と女の愛の駆け引きを表現する踊り。しかしリーダー(男子)は、パートナー(女子)を見ていません。鏡に映っている自分の姿にうっとり。(ラテンダンサーなら、あるある。)何と言っても呆れるのは、パソ・ド・ブレ。これはスペインの闘牛をイメージした、命をかけた戦いを演じるダンスです。リーダーは闘牛士、パートナーは闘牛士の持つ赤いケープ役、時には牛になります。ラテンの種目では、男が男らしさを表現する最も力強い踊りですね。アペルを踏んだ後(強い圧力で床を踏む動作)、男子はスパンと素早く首を返して前進の際に…
リーダー:「いちっ!」
かけ声だけは、一丁前。前進というのに、うちのリーダーは真後ろを見たまま(アンビリーバボー)。これでは正面から襲いかかってくる牛が、全く見えていません。あわれ、チビで毛のない闘牛士、牛にやられてしまいました。黙とう!(涙…笑)
☆眼科医からのお願いです。『♪君の瞳は1万ボルト!』あなたの大切な人の目を、見てあげて下さいね。2022年が良い年になりますことを。
著者名 眼科 池田成子