皆さま、こんにちは。糸病・眼科の池田です。糸魚川総合病院のホームページをご覧いただき、ありがとうございます。そして、糸病コラム『社交ダンス物語』をご愛読いただき、深謝いたします。さて、今回のテーマは『老眼』です。みんな、いつかは老眼。さすがの眼科医も、老眼には勝てません。ここで、老眼について、おさらいしましょう。物を見ようとする時、眼は自動的に見ようとする対象にピント合わせをしています。この眼の働き(ピント合わせ)を、『調節』といいます。加齢とともに、調節力は低下してゆきます。40歳を過ぎた頃から、必要とするだけの調節が出来なくなり、「近くが見にくい」と感じるようになります。これが、『老眼』です。
少し、詳しくご説明いたしますね。眼はカメラに例えられます。カメラでは、レンズを前後に移動させることによって、ピント合わせを行っています。眼においては、眼の中の毛樣体(もうようたい)という所にある筋肉が、伸びたり縮んだりすることで、水晶体(すいしょうたい)の厚さを変えて調節します。水晶体とは、カメラでいうレンズの部分です。水晶体には元来弾性力があり、近くを見る時は厚みを増してピント合わせします。しかし、加齢により水晶体の弾性力は低下してゆきます。タオルをイメージして下さい。長く使っているとゴワゴワ、柔軟性がなくなり硬くなりますよね。水晶体もそう。硬くなると、毛様体の筋肉が収縮しても、水晶体は厚みを増せなくなります。近くへのピント合わせが出来なくなり、次第に本や新聞の細かい文字が読みにくくなります。
「私の目は良いですよ。この年になっても、メガネをはずせば新聞の小さな文字が読めます。私は老眼にならなかったのですね。」
嬉しそうに、そうおっしゃっていた外科のドクターがいました。(第102話)それは立派な老眼です。近視の人は、もともと近くを見るのが得意なので、老眼になっても自覚しないだけ。近視の人も、老眼になります。メガネを外して近くが見えたら老眼です。眼科手術では、直径0.02ミリの糸を操ることがあります。20代、30代の頃は、糸は良く見えていました。40歳を過ぎた頃からは、「ん?」。執刀医、50半ばともなれば、ムンクの叫びマーク!老眼は40歳から始まり、60歳まで進行します。
老眼とのあくなき戦い、それはボールルームダンスの、シニア競技選手も同じと言えましょう。今ではスマホで即座に確認できますが、2~3年前は次のラウンドへ勝ち上がれるかどうかの成績表は、紙で掲示板に貼り出されていました。出場組数は多い時は200組、後楽園ホールでの試合は400組以上いました。背番号とリーダーの名前の一覧が貼り紙されます。選手達は、掲示板を見るために、我先と押し合いへし合い。(ダンスよりも、壮絶な戦い?)成績表の文字は小さすぎて遠くからは見えないし、近づいても良く見えません。(涙)これは自分たちのエピソードです。新潟県選手権、アマチュア・ラテンアメリカンの決勝にて。対戦相手は新潟大学競技ダンス部。その中に畏れ多くも、自分たちチビ・ハゲことオジさんとオバさんが…。2、3曲踊り、選手紹介(インターバル)の時に、パートナーのチョーカーがハラリと外れました。
「留めて!」
コワい顔で、パートナーはリーダーに言いつけます。リーダー(オジさん)は、パートナーのチョーカーを手にしたものの、留め具が見えません。
沸き上がるラテンアメリカン選手権決勝、観衆の熱き視線と拍手喝采を浴びる中で、
「老眼鏡を取りに行かせて下さい。」
フロアサイドにいる選手係の先生に、申し出る場の空気ではありません。(涙)あわれ50代アマチュア競技選手、フロアで立ち往生。笑っていいのか、笑えないのか…。これがシニア・グランドシニアの競技会なら許してもらえる?
「めんめ、見えないっ!」
「あるあるある!」
シニアの皆さま、共感していただけますよね。(笑)
著者名 眼科 池田成子