社交ダンス物語 310 カメは語る 距離と位置関係

コラム

 前号では、腰の手術を受けたうちのリーダーは、ベッドの上で仰向けのまま、腕しか動かず。まるで、ひっくり返ってもがいている、カメのごとしと申し上げました。「××洗え!」のしわ寄せ?(第309話)食事の際は看護師の介助による『お口、アーン』は許されず。
「甘えてばかりいたら、いつまでたっても一人で出来なくなる!」
ベテラン看護師の金言を座右の銘に、カメはサバイバル。生きてゆくためには、何としてでも自力で食べなければなりません。

 目に映っているものは、病室の白い天井。痛みのため、カメは体を起こすことも、ひねることも出来ません(寝返り不可)。病室ではテーブルがスライドされて、お腹の辺りに給食が配膳されているようです。しかし、どこに何が、どうあるのか、見ること不可。今日のごはんは何? どんなおかずがあるの? レイアウトは? 寝たきりとはいえ、カメの首は多少動きます。目は見えます。手も動きます。そこで首を動かし、カメは枕元にあるスマホを確認。それを拾い上げて、お腹の辺りにある飯台と給食の撮影を試みました。

 カメは自力で食べるためには、エサまでの正確な距離と位置関係をおさえなければなりません。スマホで撮影したその日のお昼の給食は、手前の真ん中にご飯のお椀、右端はお味噌汁、左端の手前に小皿(中身はキャベツのおひたし)、その奥にもう一つ小皿(切り干し大根)。メインのお皿(豚肉のソテー)は、手前中央に配置されているご飯のお椀の奥にありました。まずはお皿の数、お献立の種類(汁物か、そうでないか)、その配置を知り、距離とその位置関係を頭に入れます。

 カメは直視下で、配膳されたエサを食べることはできません。そこで仰向けのまま、スマホで撮影した画像からの情報を基に、手探りでおかずが入っていると思われるお皿を持ち上げました。イメージしながら、お皿の中味をご飯が入っていると思われるお椀の中へ投入(どんぶり飯もどき)。上半身を起こすことは不可なので、仰向けのままおかずを投入したご飯のお椀を、顎の近くまでもってきます。するとようやく直視下で、食べ物が目に入るか入らないか…。それをスプーンでこぼさないように、慎重に口へ運びます。ある意味で曲芸。(曲芸といえば、第93話もそう?)最初は顔や首のまわりに、ポロポロこぼれたそうです。慣れてくると、汁物でなければスプーンで上手に食べられるようになったそうです。

 カメ、もといリーダーは語ります。人間不便な体になって出来なくなったら、どうしたら良いかを必死で考える。すると、健全な人が想像もしない手だてがあるそうです。動けなくなったことで何よりも重要であったこと、それは対象への距離と位置関係をつかむことだそうですよ。


☆動ける人ほど、ポジションに無頓着だ。成子さん、ダンスも同じ。効率の良い正しい動きをするためには、男女の距離と位置関係は、とても重要だよ。(byリーダー)

著者名 眼科 池田成子