社交ダンス物語 290 元・研修医は語る

コラム

 医師育成の変遷には、目覚ましいものがあります。今では当然のこと、でも私が研修医だった30年前は、研修医のための研修プログラムは存在しませんでした。手術練習用の模擬眼や、教育ビデオもありません。研修医は1年目から、大学の医局で下積みです。先輩医師は研修医のために時間を割いて指導してくれません。「教えて下さい。」そう頼んでも、「教科書に書いてある。」「盗んで覚えろ。」と言われるだけ。オオカミは親の行動を真似ることで、成長するといわれます。そこで先輩の執刀をとくと拝見。やってみろと言われて真似てやってみせたら、手術室で蹴りがとんでくることも…。これは、古き良き時代のお話です。今だから笑えますね。大学の医局の長椅子に横たわり、自分はピクリとも動かず。『死んだふり』をしていたこともありました。(自己防衛)あれから30年。
「僕に何を教えてくれますか?」
研修医が指導医を評価する時代の到来です。

 ちなみに糸魚川総合病院では、平成20年から研修医を受け入れ、現在も研修医の育成に力を注いでおります。うちの病院にお勉強に来てくれている研修医の先生から、自分が言われた2つのこととは…。
その1「開業しないのですか?」
その2「もっと強気でいて、いいですよ。」
「開業は夢」そう語っている勤務医の先生もいれば、「開業は墓場」そう言って大学の医局で粘っていた先輩もいました。ここでは敢えて解説いたしませんが、どちらの先生のおキモチも分かるような気がいたします。医者は大きく3つに分けられます。開業するか、勤務医でいるか、教授になるかです。ちなみに教授になれる人は、ごまんといる医師の中で、ピラミッドの頂点に立てた人。ダンスで言えば、SA級(神様クラス)です。他方、開業も魅力的です。クリニックというご自分のお城を構えるのですから。

 さて、主要都市で開催される学会に参加すると、開業している先輩や同期からお食事に誘われることがあります。京都の学会なら吉兆、ホテルグランヴィア最上階の鉄板焼「五山望」など。東京の学会なら銀座の料亭、帝国ホテルのフレンチやザ・ペニンシュラの中国料理など。敷居が高いので勤務医の自分は硬くなってしまい、おしながきの価格を見てさらに硬直いたします。でも、お店ではお財布を出さずに済むことがあるのですよ。
「池ちゃん、ビンボー!」
「低所得者。」
開業医として成功なさった先生方は、にこやかにそう仰ってごちそうして下さいます。(アリガタイ)ちなみに、自分は開業するつもりはありません。勤務医の場合、病院の経営が赤字になっても、悪いのはみんな事務長さんのせいにしちゃえる最大のメリットがありますので。(事務長さん、ゴメンナサイ)

 最後に、研修医の先生から「もっと強気でいて良い」と言われたことについて考察してみましょう。うちの病院では、ヒゲ先生(第219話)が退職してから、ドクターの中では自分が一番の古株です。平成10年に糸病に赴任して、22年間勤務しております。職場では『老兵』もしくは『お局様』と冷やかされても、反論の余地がありません。そんな自分が若手から、もっと強気でいて良いとコメントされたということは、もっと自己主張しても良いということでしょうか? 嬉しいですね。現在、糸魚川総合病院の医局と講堂の2カ所に、世界のトップダンサーのポスター付きカレンダーを貼らせていただいております。只今うちのリーダーは療養中で(第288話)、コロナでダンスの大会もありませんが、リーダーが復活して競技会が再開されダンス昇級した時には、糸魚川総合病院の正面玄関の入り口の壁(一番目立つ所)や院長室、事務長室はもちろんのこと、院内のあらゆる所に社交ダンスのポスターを貼らせていただく所存でございます。ダンスラブ! ワクワクいたしますね。(笑)


☆糸魚川総合病院を、これからも応援して下さいね。

著者名 眼科 池田成子